恐怖

「僕は入浴中いつも思っていることがあるんですよ。なにかの間違いかで風呂が爆発するんじゃないかってね。どこかの連結部とかに傷がいって、漏れ出るガス。そこでお湯を温めようとしたらもうアウトでしょう?これにいつも悩まされているんですよ。」


「爆発なんてしませんよ。安心してください。」


「ええ。そうですよ。分かってはいるんです。そんなことにはならないって。そんなニュースはめったに、というか生きてきた中で聞いたことがないですもんね。飛行機を怖がるのに似ているといえなくも無いです。滅多に無い。けど、滅多に無いってことは、ごくまれにはあるということでしょう?自分だけ安全と思えるほど、僕は自信過剰でも楽観主義でもないですからね。誰の身にも有り得ることはもちろん自分にも有り得るんです。」


「そんなことを言ったら、台所でラーメンも作れませんよ?そもそも、前の飛行機の話からしても、あなたは可能性に怯えすぎる嫌いがある。やれ飛行機が落ちそうで怖いとか、やれ自動車を運転すると人が飛び込んでくる気がするとか・・・今回に至っては風呂が爆発?気にしないことです。」


「分かってはいるんだよ・・・けど、どうにもならないんだ・・・」


「行動は選択の積み重ねなのだから、どちらを選ぶにもリスクはあるんです。飛行機に乗っていたら地球全体が大地震に襲われて自分だけ助かるってことも有り得るんです。乗らないことにもリスクは存在してるってことです。どっちにしろ何かを選ばなくてはいけないんです。それにあなたはヒゲが濃いのだからつべこべ言っている暇はないのですよ?風呂に入らずして綺麗にヒゲを剃ることは難しいのですから・・・」


「はい。恐怖は消えませんが、結局だましだまし入ってきたことですし、そのまま入り続けます。じゃ、またなにかあったら来ますんで・・・」


「はい、お大事に。」